日本は、国内で消費する石油や天然ガスの99%以上を他国に頼っています。その一方で、地震や台風などの自然災害が多く、地理的にも恵まれていません。
しかし、その日本が世界第2位の経済規模(GDP)を誇っているのは、日本が人的資源を大切にし、また科学技術(特に機械工学)に強いからです。日本は技術立国なのです。これは、自動車でも(僕の好きな)カメラでも言えることです。
携帯電話もそのひとつです。日本の携帯電話は世界で最も優れています。ところが、僕は現在、米国ミズーリ州に住んでいますが、米国で日本メーカーの携帯電話を見ることが、ほとんどありません。
今回はその理由を探りたいと思います。、僕がこれから述べるのはドコモやボーダーフォーン(米国で言うとcingularやSprintなど)の通信会社ではなく、NECやカシオ(外国で言うとノキアやモトローラ)といった携帯電話本体を作っているメーカーの話です。
世界に秀でた日本の携帯電話機能
いま日本で皆さんが使っている携帯電話は、どのようなものでしょうか?
最新のものであれば、電子マネー(Felica)、テレビ電話、テレビの視聴、リモコン機能、指紋認証などができる機種ではないでしょうか。カメラには手ぶれ補正機能が付き、インターネットへの完全アクセス(フルブラウザ)も可能でしょう。
ここ米国で多くの人が持っている携帯電話の機能は、日本のそれには到底及びません。よくて音楽が聴けて、カメラが使える程度です(但しビジネスマンの間では、フルブラウザ搭載型も広まっています)。
そもそも、携帯電話をi-modeなどのようにインターネットに接続させたのも、画面をカラーにしたのも、本体を折りたためるようにしたのも、カメラを搭載させたのも、GPSで位置情報を確認できるようにしたのも、最初は日本なんです。
多くの皆さんが使っているFOMAなどの、いわゆる第3世代携帯(3G)も、2001年、世界に先駆けて日本で始まりました。2005年には、日本での利用者は4割にも達しています。発展途上国や欧米では、まだまだ2Gや2.5Gが主流です。日本では既に3.5Gへの移行が計画され、4Gの開発が進んでいます(2Gと3Gの違いは、3Gの方が高音質な通話、早いデータ通信が可能、という点です)。
世界で売れない日本の携帯電話
さて、これほど優れた日本の携帯電話が、世界でヒットしているのでしょうか。残念ながら、まったくダメです。米調査会社のガートナーが3月に発表した2005年の携帯電話の世界販売台数(PDFファイルを参照)によれば、日本のメーカーの世界シェア(ソニーエリクソンを除く)は各社1%前半です。2005年は世界で前年比21%増の8億1660万台の携帯電話が売られたにもかかわらず、日本勢は2%からそのシェアを落としたわけです。
世界でより多く携帯電話が売れたのに、日本のシェアが落ちたのは、日本メーカーの携帯電話が国内でしか売られていない証拠です。なぜなら、世界の販売台数は中南米や中国、インドが牽引しているからです。
もうひとつ、指摘しておきたいことがあります。それは、日本ほど優れた携帯電話メーカーを数多く持っている国はない、ということです。NEC、パナソニック、カシオ、シャープ、富士通、東芝、日立、三洋など日本メーカー15社がひしめきあっています。そして多くの日本人は、国内メーカーの携帯電話を使っていると思います。
一方、ここ米国で売られている携帯電話は、ノキアやモトローラーを中心に、サムスンやLG、ベンキューモバイル(旧シーメンス)、ソニーエリクソンが売られています。ですが、ノキアはフィンランド、モトローラーは米国、サムスンとLGは韓国、ソニーエリクソンは日本・スウェーデン、ベンキューモバイルはドイツという具合に、生産国はバラバラです。
しかし、その世界シェア(2005年、ガートナー社調べ)は、ノキア35%、モトローラー17.8%、サムスン12.1%、LG7.2%、シーメンス4.7%とこの6社でほぼ80%を占めています。
第2次世代(2G)での失敗、世界で孤立した日本の規格
なぜ、日本の携帯電話は世界で売れないのでしょうか。そもそも、FOMAのような3G以前、つまり2Gでも日本の携帯電話は世界最高水準にあったのですが、なぜ日本の2Gは売れないのでしょうか。
理由はとても簡単です。見た目は同じでも、日本と世界では通信構造がまったく異なっているからです。
日本は、2GにPDC(Personal Digital Cellular)方式を採用しています。これは、1993年から日本通信業界の雄、NTTの研究所が開発したもので、郵政省(現在の総務省郵政事業庁)の意向により日本の全携帯電話事業者が採用しました。このPDC方式は決して劣った規格ではないのに、NTTの海外進出を規制したため(NTT法)、世界に広めることさえできなかったのです。
一方で、世界210以上の国と地域は、G2にGSM方式(Global System for Mobile Communications)を採用しています。これは欧州で開発されたものです。
このPDCとGSMというシステムの違いが、日本メーカーの海外進出を阻んだのです。日本が2Gで、GSM方式を採用していたら、状況は大きく変わっていたかもしれません。
第3世代携帯《3G》にチャンス、しかし……
第3世代携帯電話で、日本はチャンスを迎えます。なぜかというと、第3世代ではWCDMA/TDMAという、日本も世界と同じ方式を採用することになったからです。世界で初めて3Gを運用した日本は、意気込みます。今度こそ、世界のシェアを奪おう、と。
たとえば、NECは2003年に世界最大の市場である中国での3G戦略を立て、進出しました。
ところが、日本製携帯電話は売れません。昨年には東芝、三菱電機が海外から撤退し、NECも中国での事業を大幅に縮小しました。ある中国の新聞は「日系家電メーカーは携帯電話で壊滅」とまで書いています(中国産業経済情報網2005年2月22日付記事)。
なぜ失敗したのでしょうか。それは、成功者をじっくりと見てみると、原因が分かってくるかもしれません。
世界で売れる韓国の携帯電話
第2世代携帯電話で、日本と世界210カ国・地域は違う規格を使っている、と書きました。しかし、世界のGSM方式を採らなかった国が他にもあります。それが、お隣の韓国(CDMA方式)です。
しかし、韓国メーカーの2005年のシェアはサムスンが12.1%(世界3位)、LGが7.2%(世界4位)です。サムスンの携帯電話は、ここ米国でも洒落たものがかなり出ています。ノキアが席巻していた欧州市場でも、英国、ドイツ、フランス、イタリアなどでサムスンが昨年、売上金額で1位を獲得しています。
サムスンの携帯電話は、HSDPA携帯電話(SGH-ZX20)が米家電見本市(CES2006」で「CES最高の携帯電話(the Best of CES)」に選ばれ、米情報通信展示会CTIAワイアレス2006でも「最高の携帯電話(Best in Show)賞」を受けています。また、米国の情報通信専門月刊誌PCワールド誌は、05年12月29日付(1月号)でサムスン電子の米国市場用「Bluetooth超スリムフォン(モデル名:SPH-A900)」をはじめ、5つの製品を「2005年ベストフォン」(Best Cell Phones of 2005)に選定しています(いずれも朝鮮日報)。
敗因を分析すると…
韓国と日本メーカは以下の点で似ています。
・第2世代携帯電話で世界標準のGSM方式を選ばなかった
・総合家電メーカーが携帯電話を作っている(ノキア=フィンランド=は携帯電話しか作ってない)
・高機能携帯が本国で人気。韓国は日本と同じく高機能携帯電話が発売され、3Gが主流。
さらにいえば、朝鮮日報(05年3月17日、電子版)が「携帯電話を輸出するには、依然として日本の技術に依存するしかない」と指摘しているように、日本が韓国に技術的に劣っていることはない。
これほどまでに、日韓のメーカの状況は似ているにもかかわらず、韓国が世界シェアを取れ、日本にできなかった理由は、グローバル戦略が成ってないからです。
まず一般論として、日本は国内で満足してしまう傾向があります。国内で十分な利益を上げられるために、日本メーカーは、戦略的に海外進出策を取らなかったのです。これは日本企業のグローバル性の問題です。だから、本当の意味でグローバル化しているソニー(現在の社長はストリンガー氏(米国籍))は、世界の携帯市場のシェア獲得に遅れていることをいち早く察知し、エリクソン(スウェーデン)と協力し、現在、巻き返して出ています(世界シェア6.3%、4位)。
もうひとつは、海外向けに携帯電話の仕様を変更しなかったという問題です。日本の通信会社(ドコモやau、ボーダフォン)がインターネットの接続など付加価値の向上を追及したのに対し、欧米の通信会社は、そうしませんでした。米国では、メールをしたりネットコンテンツを携帯で利用している人はほとんどいません。
したがって、日本メーカーは徹底して機能を限定した3Gを売り出すなどして、コストパフォーマンスで他社に負けないための戦略が必要だったのです(最近、米国市場で高級モデル販売に力を入れているサムスンとLGが、低価格路線に出たモトローラに押されているのもそのためでしょう)。しかし、日本で売らない(売れない)ものを世界のために作るという発想は、日本メーカーには、なかなか出てこないようです(例えば、世界で日本より売れているトヨタ・プリウスも、もともとは日本で最初に発売されている)。
また、第2世代携帯で、韓国は自国のCDMA方式の開発に集中していましたが、国内では一切使えないGSMも生産しています。例えばサムスンは、GSM方式の携帯電話でも世界3位シェア(12%)を持っています。中国やインドなどはGSM方式を採用しており、これらの地域で販売が伸びています。
攻めから守りへ、日本メーカーは危機?
では、日本に巻き返しのチャンスはあるのでしょうか。厳しいかもしれません。
なぜなら世界に進出する前に、国内シェアを守る必要がでてきたからです。今年、日本の携帯電話(通信)各社が、サムスン、LG、パンテックの韓国3社の携帯電話の採用を決定しています。そろそろ日本で販売が始まっていると思います。機能、値段ともに日本勢を上回る可能性が高いようです。
特に値段については、日本メーカーのものより安くなるはずです。日本最大のNECでさえ携帯電話の販売台数が年間1000万台に届かないのですが、例えばサムスンは年間1億台売っています(2005年)。たくさん作れば、ひとつあたりの製造コストは下がります。
いまのところの僕の予想では、日本では国内15社の提携・協力が進むでしょう。すでにNEC、松下が交渉を開始しています。また、日本メーカーは輸出先国の企業と協力する形でグローバル戦略を立てていると思いますが、相手国まかせではだめです。自国の社員がしっかりとグローバル化していなければ、失敗します。あのソニーでさえ、米国映画界に進出したときはそうでした。
売り上げが伸びなければ、技術開発の費用も捻出できません。世界に敗れた日本の携帯電話メーカーは、グローバル化すべきです。これは、企業だけではなく日本そのものに課せられた課題のように思います。
(西尾邦明)
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